夜の街 14 「……涼、お前、何してんだよ」 夜の街をふらふらとあてもなく歩いていると、呆れたような声が背後から響いた。 「ん? 何だ、佐山か……二次会か? 」 「『何だ、佐山か……』じゃねーよ。お前、同窓会に来ねーで、何やってんだよ」 「いや……ちみっと、ダチに呼ばれてな」 涼のその飄々とした態度に、佐山はどうやらムカついたらしく、唐突に襟元を掴まれた。 「ダチに呼ばれたじゃねーだろっ? つーか、お前、五月さんがどんだけ心配したか……」 「ふん……」 (何も知らないくせにとやかく言うんじゃねーよ……けど、五月、もしかして、俺が来ないの、自分のせいだとか落ち込んだんじゃ――) 内心ではそんな風に多少反省をしながらも、涼は表面上は憮然とした様子で鼻を鳴らした。 「『ふん』じゃねーだろ……で、何があったんだよ? 」 佐山は急に涼の襟から手を離し、じっとその真意を確かめるようにそう訊いてきた。 「……別に」 涼はあくまで憮然とした態度を変えなかったが、さすがに長い付き合いである佐山にはお見通しだったようだ。佐山は「仕方ねー奴だな」と言わんばかりに微苦笑を浮かべた後、ふっと溜息をついてこう言った。 「五月さん……お前のこと、好きっぽいよ」 佐山の言葉に涼は思わずそれまでの憮然とした表情を一気に崩し、激しい動揺を見せた。 「はぁっ?! だって、アイツ、俺が『可愛い』って褒めたら、『からかうな』って怒って、泣いちまって――」 涼のそんな言葉に佐山は肩をすくめ、どこか呆れたようにクスクスと笑い出した。 「な、何だよっ? 」 「ああ、だからだなって。いや、お前って本当にこの件についてだけは判りやすい奴だなって思って。多分、五月さんもビックリしたんじゃねーかな。実際、お前に嫌われてると思ってるみてーだったから、あれからずっと」 「は? あれからって? 」 「お前が五月さんのチョコ、『迷惑だ』って叩き潰してから、ずっとだってさ」 「その話、出所は? 」 涼は思わず情報の出所を問うた。その出所によっては、正直、信憑性は0に近くなる。 「え? ちーちゃん! 」 佐山はそうはっきりと言った。ちーちゃんというのは、佐山の想い人の同級生、宮田 千香のあだ名である。涼の記憶では、千香とあゆみは小学校の頃、非常に仲が良かった。それに加え、現在でもかなり仲が良いのだと佐山は言う。つまり、情報の信憑性は高い。 「……マジか」 「マジだ」 涼が問いかける声に重ねるように、佐山がそう言い返す。 「……で、その、五月は何て? 」 「いや、何か可哀想なくらい落ち込んでたんだよ、彼女。そしたら、別の奴が、『大丈夫、大丈夫。ナルサワはどうせ今頃、いい女とよろしくやってるんだから』って慰めて――」 佐山は言いにくそうに更にこう続けた。 「んで、そいつが『五月さんは知らないだろうけど、ナルサワは女たらしだから気をつけた方がいいよ。信用したら、それこそ被害者の会の仲間入りだ』って余計なこと言ってさ」 「それ、誰が言った? 」 「……いや、言ったら、多分、涼、そいつのこと、潰すだろ? 」 「誰がそんな物騒なことを……するわけねーだろ? 少なくとも、俺は手を出さないぜ。うん、約束する。さぁ、佐山、教えてくれ」 涼はにっこりと微笑み、佐山の言葉を促した。すると、佐山は微苦笑を浮かべ、呟いた。 「お前がその笑顔浮かべる時点で嘘、だろ」 「ああ、嘘だ」 佐山の問いかけに涼はあっさりと自らの嘘を認めた。そんな涼に佐山は大げさに溜息をつき、ぼそりとその発言をした人物の名前を告げた。 「マルヤマ、マルヤマ ミキだよ」 マルヤマ ミキ、その名前に涼は軽く舌打ちをした後、渋い表情を浮かべた。それは、中学に入学してすぐに付き合ったものの、たった1ヶ月で別れた同級生の名前。まぁ、どうやらあちらさんもそれまでに経験はあったらしく、結構すんなりコトまで関係は進んだ。だが、涼という人間よりも、彼の容姿やバックにあるものに惹かれてミキが付き合い続けているという事実がその言動から、ちらちらと見え始めたのに嫌気が差し、すぐに別れた。 「まぁ、理由はあれど、ありゃお前が悪い」 「ふん……んなの理解ってる。だから、もう五月には逢わない方がいいんだよ」 涼のそんな言葉に佐山はもう口にするのが何度目かすら覚えていないフレーズを呟いた。 「……けど、やっぱり、好きなんだろ? 」 |