自己による断罪と他者による救済 2 「……藤崎先生、お客様がお見えですが――」 午前の診察を終え、風花の病室へ向かいかけた純平に、看護師のコバヤシが来客を告げた。 「え? どうせ、製薬会社のセールスマンか何かだろ。適当に理由をつけて……」 純平が看護師に背を向けてそう言った瞬間、背中越しに、小馬鹿にしたような声が向けられた。 「女遊びで忙しい藤崎大先生? お久しぶり」 純平はその声の主の姿を脳裏に浮かべ、ほんの一瞬だけ、眉間に皺を寄せた。しかし、ここで大人気ない対応をすれば、声の主は更に増長するに違いないし、何も知らずにこちらを見ている看護師の手前もある。純平はにこりと大人の微笑を浮かべる、静かに声の主に向き直った。 「誰かと思えば、祐じゃなかった、修二君じゃないか。風花の見舞いに来てくれたのか? 」 「そう、見舞いがてら……アンタに色々と言いたいことあってね」 「俺に? なら、中で話そうか。ああ、コバヤシ君、君は休憩に入っていいよ」 先程から自分のそばで心配そうに成り行きを見つめていたコバヤシに席を外させると、純平は診察室の方に修二を視線で誘った。修二は相変わらず挑戦的な視線を向けながら、素直にそれに従った。純平は自分のいすに座り、修二は患者が普段座っている椅子に座らせた。 「それで……君の話って、何? 」 「けっ、気持ち悪りぃ。だいたい、物わかりのいい大人面はやめろよ。んなことしたって、アンタが風花にしたことは消えやしねーんだから」 修二はあからさまに嫌悪感を露わにした表情を浮かべ、じろりと純平を睨み付けた。純平は相変わらず微笑を浮かべて、それを酷く穏やかな口調で流した。 「ああ、そうだね……言いたいことはそれだけかい? なら、出来れば早々にお引取り願え……」 「……いつになったら、アイツは自由に、楽に、なれる? 」 「え? 」 「だから、いつ、アイツは退院出来る? いつになったら、自分を赦せるように、なる? 」 修二のそんな問いかけに純平は答えず、逆に彼にこう問い返した。 「自分を赦すだって? 」 「ああ……今、アイツは苦しんでる。罪を償うには死ぬしかないって、思ってる」 「…………」 修二の言葉に純平は思わず唇を噛んだ。風花が何かを隠しているのは薄々気付いていた。そして、その隠している何かが風花を死に向かわせていることすらも。しかし、その何かを暴くことを未だに出来ていない。それなのに、修二はその何かを知っている、それが酷く妬ましかった。 「何を知っている? 」 純平は顔から先程までの微笑を拭い去り、低い声で修二に再び問いかけた。だが、修二は酷く冷淡な声でそんな純平の質問を跳ね除けた。 「それを知ってどうする? 知ったところで、アンタには何も出来ない」 「どうしてそれをお前が決める? そう言うお前だって、アイツに何も出来ないんだろ? 」 |